釣り好きの人には悪い人はいない①

先週の日曜、わたしは25年の人生で初めて結婚式という一大イベントに出席する機会を得た。2018年から共にバンドを続けてきたメンバー2人の結婚式・披露宴に招待されたためである。式前日、前任ベーシストの仲村も沖縄からはるばる熊本にやってきた。彼女も今回の式に招待され、出席するために数年ぶりに熊本に帰ってきたのだ。数週間前に仲村へLINEで連絡してみると、わたしの自宅に式前日・当日と2泊して、式翌日に沖縄へ帰るというスケジュールで動きたいとのこと。二つ返事で快諾したわたしは、彼女の宿泊に備え数日前から自宅の掃除・来客用の寝具の用意・数年ぶりに熊本へ帰ってくる旧友と行きたいご飯屋さんのリストアップ・朝まで2人で遊ぶswitchゲームソフトのリストアップなど、できる限りの準備を進めたのであった。

そして式前日。19時ごろに熊本に着くという仲村の報せを受けてわたしは、19時過ぎに三年坂TSUTAYAにてスタンバイ。今どこいる?と聞かれTSUTAYAのカルディあたり、とLINEで答えたその数分後、わたしたちは数年ぶりに熊本での再会を果たした。しかし、そんな感動の瞬間も束の間、彼女の口からは驚くべき言葉が発せられたのであった。「今日私病み上がりで体調悪いから」。思わず我が耳を疑ったが、確かに目の前の女性はいささか顔色も悪くテンションも限りなく低かった。これまでもテンションが高いところは基本的に見たことはなかったが、それにしても明らかに平時より元気がない様子だった。わたしはこの日仲村とナバロへ一緒に遊びに行きたいという1番の目的があったが、それは断念しなければならない状況だというのは明白だった。しかし諦めきれずに「清田さんに久しぶりに会いたくない?」と聞くと(この日のナバロはDoit scienceとデュビア80000ccのライブがあった)、「どうせ私のことなんか覚えてないでしょ」と言われた。いや超覚えてるよ!と答えると「どうせお前が未だに私の変な話を色んな人にしてるんだろ」というニュアンスのことを言われ、うまく否定できなかった。

とにかく話をまとめると、仲村は清田さんには特に会えなくても構わない、ナバロにも別に行きたくはない、できることなら今すぐ寝たいということだった。そうだった、こいつはこういう人間だったーーーー体調に関しては仕方のないことであるが、彼女がとんでもなく薄情でドライな人間であるということをわたしは段々と思い出し始めていた。

ご飯はサクッとなら食べてもいいと言われたので、何が食べたいかリクエストを聞くと、温かいものがいいとのこと。こいつは普段沖縄で何を食って生きてるんだ?と思いつつも、我々は上通りのおでん屋さんに向かった。しかし土曜ということもあって予約無しではどのお店も混んでいて入れなかった。何軒かふられ、行き場を失い歩き続けるとナバロの前まで辿り着いた。ここまで来ればさすがの仲村も「ちょっとナバロ覗いてく?」と言い出すのではないかと期待したが、彼女の口は閉じられたままだった。その道中偶然ナバロオーナーのだいすけさんに遭遇したので、仲村を紹介した。だいすけさんは仲村のことを覚えてくれていて、「今日ナバロこないの?」「白川夜市行けば?」と話しかけてくれたが、仲村が口を開くことはなかった。わたしがこの子体調悪いんですよ〜今日はすみません帰ります!とだいすけさんに別れを告げ、再び歩き出すときも、仲村はどこか他人事のような顔をしていた。

再度話し合いの時間を設けた結果、車で大学近くのウエストといううどん屋さんに行くことが決まった。小一時間かけて往復と食事を済ませ、21時くらいには自宅にたどり着いた。道中や食事中に、仲村がいなくなってからのナバロのことや、最近のMPBのこと、わたしの仕事の話などに花を咲かせたが、今思えばわたしが9割喋っていた気がする。

自宅に着くやいなや、仲村はすぐに寝る支度を始めた。一応「一緒にswitchしたかったなあ」と伝えてみたが愛想笑いで誤魔化された。諦めたわたしは給湯器のスイッチを入れ、仲村にお風呂をすすめた。すると仲村はそういえば、とお土産の袋をいくつかスーツケースから出し始めた。沖縄そばやソーキ、タコライスの素など、たくさんの沖縄土産でテーブルが溢れかえった。正直この時点までは若干「こいつ今日何しにきたんだ?」という思いを禁じ得なかったが、嬉しいお土産を前にするとすべてを赦せる気がした。

そしてお風呂上がりの仲村とリビングでしばし談笑。最近ネットの友人と仲良くしてるの?と聞くと、仲良いよーという返事。仲村は数年前からネット上で趣味を通して友人ができ、よく通話でゲームをしたりして遊んでいるらしかった。よくよく聞くと、去年その友人ら5人グループで東京に5泊6日で旅行に出かけたとのこと。そこまで仲が良いとは思っていなかったので、東京で何をしたのか聞くと、「ディズニーに行った」という返事が返ってきて、わたしは愕然とした。わたしは仲村とは大学1年のころからの付き合いだが、一緒に旅行というものに行ったことは一度もない。仲村と5泊一緒に過ごすなんて絶対に無理だ、耐えられる気がしない。ディズニーで一緒に遊ぶ光景なんて想像もつかないし、行ってもたぶんそれほど盛り上がらないだろう。仲は良いがそういう間柄ではない。バンド練のあとにふたりで近くのガストに行って5時間くらいくだらない話でだべる、そういう遊び方しかわたしたちは知らない。しかし、そのインターネット友達たちとはディズニーにも行けるし、5泊6日の旅行にだって行けるのだ。わたしはそれが少しショックだった。小学生のころから仲の良かった友達が、中学にあがって、塾に通い出して、塾の友達とのプリクラを緑の下敷きの裏に貼るようになった。わたしはプリクラが苦手だった。あのころの感情を思い出して、気付けば「わたしとは旅行なんて行ったことないじゃん?!」と重い女のような言葉を口走ってしまっていた。しかし仲村はただ笑って、「だって私たち趣味合わないじゃん」と言った。

 

釣り好きの人には悪い人はいない②へ続く