2022年に映画館で観た映画まとめ

ありがたいことにこの度もまた無事に年を越せたので、去った2022年に映画館で観た映画でもまとめようかと思い立ったが、Filmarksの鑑賞記録を参照してみると該当する映画は6本しかないことに気づく。普段ちょっとした映画好きを装っているくせにこれはまずい。まずすぎる。1年もの歳月をかけてたったの6回しか映画館に足を運べなかった自分に心底がっかりしつつ、その少ない数のおかげで観た映画をまとめるのはだいぶ容易いのでよしとすることにした。ジョン・キューザック扮するロブ・ゴードンがレコードを買った順番で並べるように、わたしも観た順番で映画を並べていく。

①ポゼッサー

父親(デヴィット・クローネンバーグ)譲りの暴力描写と特殊効果で鮮烈なビジュアルを生み出すブランドン・クローネンバーグ監督第2作。1作目の『アンチヴァイラル』が最高だったので2作目の公開がずっと待ち遠しかった。そして本作はその期待を遥かに超えるSFバイオレンス哲学ホラー映画だった。主人公は暗殺者、他人の脳内に侵入し人格を乗っ取り、その身体を使ってターゲットを殺す。任務が終了した後は自らの手で宿主の命を終わらせ、その意識から脱出する。なぜそのような周りくどい方法を取るのかというと、ターゲットに近しい人物へと成り代わることで、自然かつスマートに殺しを実行できるのだ。しかし主人公はその“仕事”のため他者の意識に入り込み続けるうちに、段々と自分が何者であるのかわからなくなっていく。

個人的にはコリンという男を拉致して意識をジャックするシーンがとにかく最高だった。クリス・カニンガムを彷彿とさせる、見ててひたすら具合の悪くなる悪夢みたいなビジュアル。『アンチヴァイラル』以上にそういったショッキングなビジュアルが多くてとてもよかった。ストーリーは哲学的な示唆に富んでいたが1回の鑑賞では深いところまで理解が及ばなかったように思う。またぜひ観たい。

 

ダイナソーJr./フリークシーン

みんな大好きダイナソーJr.ドキュメンタリー映画。まずは大音量で彼らの音楽が聴ける気持ちよさ。そして内容としてはとにかくバンドが喧嘩ばっかりしていた。さすがに仲悪すぎるだろと思った。しかしルー・バーロウ(多分)が言ってた「バンドをやってて楽しいと思ったことなんて一度もない。楽しいからやるんじゃない。やりたいからやるだけだ」みたいなニュアンスの言葉に思わず拳を突き上げそうになった。そうだよ、そうなんだよ、、やりたいからやるだけなんだよ。

それとJが言ってた「俺はドラムを叩くようにギターを弾きたいんだ」っていう言葉にも非常に感銘を受けて、今でもスタジオやライブでギターを弾くときにこの言葉を思い出してる。ドラムを叩くようにギターを弾けば、めちゃくちゃデカい音が出せるに違いない。

 

リコリス・ピザ

ポール・トーマス・アンダーソン監督作。劇伴はジョニー・グリーンウッドリコリス・ピザというのはアナログレコードの意味らしい。1973年、ハリウッド近郊の町を舞台に、男子高校生ゲイリーとその10歳年上の女性アラナとの出会いから始まる、めまぐるしい恋愛模様を描く。アラナやその姉たちを演じるのは姉妹ロックバンド・HAIMのメンバーで、今回がはじめての映画デビューらしい。ゲイリーに実在のモデルとなる人物がいたり、1973年当時の映画や俳優をモチーフにしたシーンが度々出てきたりと、元ネタを知ることでよりいっそう楽しめる映画に違いないが、わたしのようにそれらの知識に乏しくとも十二分に楽しめた。将来への希望と自信に満ちた主人公が、自分探しにつまずき大人になりきれないヒロインと出会い、こち亀ばりのドタバタ劇やすったもんだを通し、長い夜をこえて共に走り出していく。1973年のアメリカなんて経験したこともないのに、気づけば感じたことのない懐かしさで胸がいっぱいになっていた。見終えたあとはピンボールがしたくなること間違いなし。

 

ブエノスアイレス(4Kレストア版)

英題は『Happy together』らしいが、それってなんの冗談だよと思ってしまうくらい、トニー・レオンレスリー・チャンが終始お互いを傷つけあう映画。惹かれあっているはずのふたりが劇中では激しくぶつかりあいすれ違い続け、胸が苦しくなる場面ばかりだった。しかしアパートの台所でタンゴを踊るシーンや、イグアスの滝をバックに“Coucouroucoucou Paloma”が流れるオープニングシーンはため息が出る美しさだった。それ以外にもさすがウォン・カーウァイ×クリストファー・ドイルという他ない映像美で全シーン超スタイリッシュ。正直多少話の筋が追えなくてもその押し寄せる映像美だけで90分観れてしまう映画。

同じく男性同士の恋愛を描いた映画だと『ムーンライト』も素晴らしいが、その作中でバリー・ジェンキンス監督は本作へのオマージュを捧げている。30代になった主人公がかつての想い人と再会するために車で旅立つシーンで流れるのが、“Coucouroucoucou Paloma”だ。

 

恋する惑星(4Kレストア版)

これまたウォン・カーウァイ監督作。一度視聴済みだったが改めてスクリーンで観たかった。

2部構成になっており1部は金城武演じる刑事が主人公。2部はフェイ・ウォン演じる惣菜屋の店員が主人公。ウォン・カーウァイらしいスタイリッシュな青春恋愛映画で、1部2部どちらにもメインの役どころに刑事が出てくるのが特徴。そこで描かれる物語はどこか奇妙でずれた恋愛ばかり。1部では主人公が恋人にふられ傷心のあまり、自らの誕生日である5/1が賞味期限のパイナップルの缶詰を誕生日当日まで1ヶ月買い続ける。パイナップルは元恋人の大好物であったが、主人公はとっくに期限切れの恋に気付けないでいる。2部では主人公が好きな人の部屋に無断で侵入して勝手に模様替えしたり(もはやただのストーカーである)、その彼に惹かれながらも遠くの国に旅立つことを夢見たりする。共感性はそこまでない恋愛模様が終始描かれるが、「1万年愛す」や「57時間後僕は彼女に恋をした」など、むず痒くなるほどポップで印象的なキーワードが映画の求心力に一役買っていた。公開当時の香港の社会情勢も併せて観てみると、また違う見え方が浮かび上がってくるのかもしれないとも思った。そして今やあまりに有名すぎるカバーソング、フェイ・ウォンの“夢中人“や、ママス&パパス”夢のカリフォルニア“など、音楽面においても素晴らしい映画だった。

実は個人的には本作より『天使の涙』のほうが好きなのだが、上映スケジュールと予定が合わず観れなかったことが心残りである。

 

素晴らしき日々も狼狽える

鹿児島のWALK INN FES!をその始まりから現在まで追ったドキュメンタリー映画。いわゆる普通のドキュメンタリータッチではなく、メインの語りにフィクションを絡めた作風。最初はなぜそういった語りが必要なのか些か疑問に思ったが、ラストまで観ると納得。フェスを追った作品だからといって「音楽」だけではなく、「街」も重要なテーマのひとつとして描かれている。「街」は我々の誰もが関わっている/いくものなので、バンドをはじめとした音楽にさほど興味関心がない人でも楽しめるような映画だと思った。

個人的に知っているバンドや人が出てきて嬉しくなったりしたが、それ以上に知らないバンドや人の方がもちろん多く、鹿児島ではこういう人々の行動の連続が「街」をつくりあげているんだと大変勉強になった。いや鹿児島だけではないんだろう、わたしの住んでいる街だって同じようなものなのかもしれない。その連続の中にわたしはいるんだろうかと不安になるけど、とりあえず無事に年は越せたので、2023年はとにかく行動していくしかない。もっと映画館に足を運びたい。もっといろんな場所を訪れたい。もっといろんな人に出会いたい。けど忘れたくないのは、今いる場所やそこにいる人たちを大事にしたい。あと痩せたい。